○PWA人気投票一位記念SS 「二人のクリスマス」
ヨーロッパの文化圏に来てからつくづく思ったのが、こっちの人たちは地元の神様にとっても愛があるっていうこと。
クリスマスにハロウィン、季節ごとのイベントは数多い。
そのかわり、他の宗教に関しては排他的であることは否めない。
地元は地元のもので埋め尽くす!
そんな感じの気風がある。
(そっかあ……アマツって変な国なんだ……)
神様はやおろずいて、お米の粒にさえ宿っている。
すべて大事に、受け容れて、飲み込んで。
おめでたいことはみんなで共有していこう。
……そういう考え方は少数派なんだってことが解った。
だから。
【シャルロッテ】「魔法使いにクリスマスなんて関係ありますか。契約神にキリストがいるのならともかく」
【ユメ】「あうう……そうだよね……」
シャルロッテにはけんもほろろに、クリスマスパーティーの提案は断られてしまったのだった。
◇◇◇
【クリシュナ】「ははは、それは残念じゃったのう。ユメの国の常識が、世界の常識とは限らぬからな」
【ユメ】「ううう、そうなんです。アマツでは宗教関係なく、賑やかで楽しいことは騒いじゃうから」
【クリシュナ】「それはそれで、良き文化なのじゃがな。こちらの人間には受け容れ難いだろうて」
金曜の授業が終わって、夕方の街。
クリスマスカラーに彩られ、街は色んな人で賑わっている。
その中を、私たち二人も訥々と歩く。
今日はイブで、明日はクリスマス。
アマツなら、恋人同士が永遠の愛を確かめ合う日だ。
いつもなら全然気にならない。
正確に言えば、殿下と恋人同士だったら、興味もない。
(でも、今年は殿下とハッピークリスマスだって思ってたんだよー!)
アマツ人の常識で、勝手に『イベントがあるもの』と思い込んでしまっていた自分も悪いのだけれど。
殿下にも「あり得ない」って言われてしまうと、やっぱり凹む。
そりゃ、殿下はヨーロッパよりさらに文化圏の違うところの王子様だもんね。
他国の神様の誕生日を祝うのでさえ「は?」って感じなのに、どうしてそれが恋人同士のイベントになるのかなんて、理解の範囲を超えたところにあるに違いない。
……ワガママを押し通す気はない。
だから私はちょっとだけ殿下に愚痴を聞いてもらって、このクリスマス気分だけを、二人でお腹に入れることで満足しようとしていたのだった。
向こうは……単にいつもの『お茶の時間』だと思っているだろうけど。
(それでも私にとっては特別な日だ)
恋人と初めてのクリスマスを過ごすことは。
【クリシュナ】「お、そろそろ帰らないと、門限に遅れるな」
【ユメ】「はい……そうですね」
門限の鐘が鳴る。
いつも通りの毎日の、いつも通りの時間なのだから当たり前だ。
だけど寂しくなる。
年末だから、学校に戻ると常より慌ただしい。
転送陣が使える子や、船や飛行船で短日の往復ができる子たちは、年末年始を家族で過ごすための準備に大わらわだ。
もちろん、これにも私は関係ない……。
【クリシュナ】「ユメ」
【ユメ】「……は、はい?」
【クリシュナ】「何をそんなに悲しがっておる」
【ユメ】「かっ……」
悲しがってなんかいない。
そう返そうと思ったけれど、失敗した。
ちょっとだけ、目の端から涙がにじんでしまった。
瞬間、私は殿下の腕の中に抱きしめられる。
【クリシュナ】「なにがそんなに寂しいのだ。余がこうして側におるのに」
【ユメ】「そ、そういうことじゃないんです」
【クリシュナ】「では、なぜじゃ?」
【ユメ】「……ただ、その夢だったから」
【クリシュナ】「夢?」
【ユメ】「その、だから……恋人同士でクリスマスを過ごすことが、です」
【クリシュナ】「……なんと、その話題、まだ引っ張っておったのか!」
大袈裟に殿下が驚く。その反応に私はやっぱりちょっと傷つく。
殿下にとってはやっぱりどーでもいいことなんだって、解ってしまうから。
だから腕を伸ばして殿下から離れた。
【クリシュナ】「こら、どうして離れる」
【ユメ】「だ、だってみんなが見てます」
街中で立ち止まって、抱き合って。
そんなの『普通の日』には相応しくない。
なにより通行の邪魔になる。
だけど殿下は――再び強く私を抱きしめてきた。
【クリシュナ】「馬鹿者。譲れない願いなら、もっとちゃんとねだれ」
【ユメ】「で、殿下」
【クリシュナ】「余はおぬしの恋人であり、パートナーであるぞ」
【ユメ】「……わ!」
瞬間、殿下のシンボルが空に掲げられた。
まるで花火のような光が散って、美しい雪のようになる。
みんなが見とれる美しい光の花。
その花弁の陰に隠れて――私たちはそっとキスをした。
【クリシュナ】「……」
【ユメ】「……殿下」
【クリシュナ】「今日でなくとも、おぬしといる毎日は、いつでも余にとって特別な日じゃ」
甘くてとろける砂糖菓子みたいな言葉が囁かれる。
私はもうそのすべてに参ってしまって、自分のほうから二度目のキスをした。
最高のクリスマスがやってきた。
神でなく、殿下の愛に感謝した。
彩色:えまる・じょん