○【7.雪だるまアタック!】
重たい鉄扉を開け、図書館塔を出ると、冷たい寒波が全身を襲ってきた。
【ソイ】「よいせっ……ぐぐ……お、重い!」
【ユメ】「わぷっ! さ、寒いーー!」
【ユーリ】「窓から見た景色は、春だったのにね。扉を開けたら冬だ」
【アキト】「やれやれ、気まぐれなあいつの頭の中らしいぜ」
ユーリの言うとおり、塔の中から見たものと、外に出た景色は正反対になっていた。
春風は吹雪に、花びらは雪に。
手足はかじかみ、息は真っ白になる。
暖かいところから寒いところに行くってだけで、どうしてこんなに不安になるんだろう。
ここは先輩の一部なのに。
—— きっと、悪魔の気配がするせいだ。
背後で氷の割れるような音がした。
【ユメ】「わっ!」
【アキト】「あぶねえ!」
とっさにアキトに引っ張られる。
ついさっき私がいた場所に、雪の固まりが落ちてきた。
なんと、さっきまであった図書館塔が、みるみるうちに白い雪の固まりになって ——崩れてきたのだ!
【ユーリ】「『冬枯れの森に住まうニンフよ、凍てつく歌で討ち滅ぼせ! ホワイト・アンセム』!」
【ソイ】「『偉大なる風伯《ふうはく》、ヴァーユよ! おのが愛し子を守り給え! ワユ・ソリッド』!」
ユーリと殿下が揃って魔法を唱え打ち、雪崩となって襲い来る雪を細かく砕く。
頬に冷たい雪のかけらと、アキトの腕の温もりが伝わる。
どどうという重たげな音が辺りに響き渡り、私たちは吹っ飛ばされた。
【ユメ】「きゃあああ!」
【アキト】「うわっ!」
だけど雪は武器にもなるけど、盾にもなってくれる。
私たちの体は空中に大きく弧を描きながらも、深い雪の中に優しく抱き止められた。
ただし、口の中にたっぷり水分を含むことになったけれど。
【ユメ】「ぺっぺっ……苦い」
【アキト】「ったく、なんて真似しやがんだ。外を冬にするだけじゃなく、建物自体も消しちまうとは」
【ソイ】「……リップの仕業じゃろうな。比較的安全だった場所を消すことで、我らに心理的な圧力をかけているのだ。だが、そもそもこの夢世界から出るには、やつを捕らえなくてはならぬ。背水の陣を引いたと思えばよい。そうであろ?」
相手のとんでもない力を感じ、ちょっとびびっている私を鼓舞するように、殿下は笑った。
そんなに自信満々に言われると、萎えていた気持ちも少し回復してくる。
うん、そうだ。
落ち込んでいたってどうしようもない。
先輩のためにも、がんばらなくちゃ!
【ユメ】「は、はい。前向きですよね、なにごとも」
【ソイ】「うむうむ。落ち込んで、思考と共に足が止まってしまうほうが、よほど今の我らには危険じゃからの」
【ユーリ】「しかし、あてどなく彷徨うわけにもいかないよ。……夢の世界とはいえ、ちゃんと寒いし……」
吹きつけてくる風に負けないように、私も立つ。
ユーリの髪の毛がぱらぱらとはためき、細い肩に氷が散る。
わざと合わせたわけじゃないけれど、四人同時に首をすくめ……お腹を鳴らした。
【ユーリ】「……飢えるみたいだ」
特に、私の音が大きかったけど、気にしない。
ユーリが笑ったような気もするけど、気にしない!
ほっぺたが赤くなったのが自分で解って、手のひらでぎゅっと押さえつけた。
【アキト】「……確かに、腹減ったな。夢の世界なのに」
【ソイ】「そう、夢の世界なのに、じゃ。これが夢魔リップと戦う上での最大の難関じゃの。やつの住み着いた夢の中では、現実と同じように、腹も減れば、怪我もする」
【ソイ】「油断するなよ。……致命傷を負えば、現実の体にも危害が及ぶかもしれぬ」
【ユーリ】「うん、気をつけよう」
【アキト】「了解」
それにしても、夢魔リップという悪魔は、相当な実力者のようだ。
人の体の中から魂を抜き取るだけならいざ知らず、頭の中にこんな世界を作るなんて。
ランクで言えば、一級神と同等くらいの力を持っているはずだ。
みんなの表情も険しい。
【ユメ】「だ、大丈夫だよ。みんな揃ってるんだもん。勝てるよ」
【アキト】「ユメ」
【ユメ】「大丈夫!」
厳しい表情を少しでも和らげたくて、根拠のない励ましの言葉を言ってみた。
三人とも、ちょっと目を見開いて私を見る。
でも見つめ返した。負けないように。
それくらいできなきゃ、信じてもらえない。
(そして自分自身のことも、信じさせること)
ふ、とユーリが柔らかな笑顔をくれた。
【ユーリ】「そうだね。ユメちゃんが言うことだから、信じられるかも」
【ユメ】「ユーリ」
だけど同じ瞬間に、魔法の杖も構える。
どうしてだろう。
よくよく見ると、殿下もアキトも、シンボルを抜いたままだ。
——そこでようやく、私も気づいた。
さっきからみんながずっと浮かない顔をしているのは、なぜなのか。
——耳に届き始める、何かとても重たいものが落ちる音。
断続的に……人の足音のように……けれど圧倒的な……質量で!
【ソイ】「……見えるな。雪原の向こうにあるあの城に、リップがおる。シグルイでやつを捕まえ損なった時も同じデザインの城を使っておった」
【ユーリ】「なるほど。あそこにたどり着いて、あの夢魔をやっつければいいんだね」
【アキト】「ふん。簡単な仕事だな。飛行魔法を使えば、走れば十分もかからねえ」
【ソイ】「はは、頼もしい言葉じゃ。しかし、当然……簡単には飛ばせてはもらえぬぞ」
山だと思っていた。
でも違った。
雪の色に隠れた、真っ白なゴーレムが、私たちをめがけて走ってきていた!