○【9.みんなの力を一つにして】
目を閉じると。
さっきの殿下の囁き声が頭一杯に響いている。
——「……練習もできぬ。本番一発勝負じゃが。それは、おぬしをちゃんと魔法使いとして、対等に扱った証拠と思うて、必ずやり遂げて欲しい」
その後に続いた、作戦内容の説明は至ってシンプル。
【ソイ】「我らがゴーレムを引きつけ、あの城に至るまでの道を作る」
【ソイ】「できる、できないは関係ない。決めたからにはやるのが男じゃ。しかしの、この役目は実は、『最大の危険』ではない」
【ソイ】「むしろ我らは、おぬしに一番危険が高い仕事をさせようとしている」
【ソイ】「我らが作った道をたどるのは、ユメ。おぬしじゃ」
【ソイ】「飛行魔法で、発動した我らの魔法をつかず離れず、追いかけるのじゃ。あの、夢魔の城に向かってな」
そこまで説明されて、少し青くなった。
もしかして、みんなは私を守るために、わざとゴーレムと戦う任務を割り振ってくれていたのかと思ったけど……違う。
【ソイ】「スピードを出しすぎれば、魔法に触れて死ぬし、遅れたらゴーレムたちの餌食になってしまう」
違うのだ。
単に私がゴーレムと戦っても、役立たず。
そしてなにより。
私が一番その任務に向いている……からなのだ。
【ソイ】「余が代わりにやってもよいのだぞ」
だけど私の内心の不安を、殿下はすっかり悟っているようだ。
金色の瞳が、私の決意を値踏みしている。
——私は、いつもその目に認められたいと願っている。
ならば。
【ユメ】「やります」
【ソイ】「ユメ」
【ユメ】「役割ってものがあります。私と殿下じゃ、魔法の才能が違いすぎます。交代したら、そもそも魔法が、夢魔の城まで到達しません」
【ユメ】「それに、この中で私が一番小さい。ゴーレムの間をすり抜けるのに、適しています」
私と殿下が話す端で、ユーリが小さく笑っていた。
【ユーリ】「……ばっちり。百点の回答」
殿下も笑う。私の頭を背伸びしてなでて。
【ソイ】「うむ。それだけ肝が据わっておれば、きっと、追試もうまくいく」
【ユメ】「はうっ、思い出させないでください! やる気がそがれます」
【ユーリ】「あはは、帰りたくなくなっちゃったねー」
【ソイ】「お、それはすまぬ。まあ退学になったら、余の嫁になればよい。不自由はさせんぞ」
【ユメ】「お断りです! だ、だって私は……黄金竜を呼びにきたんですからあ!」
【ソイ】「はは、そうじゃった、そうじゃった。ならば、必ずやり遂げよ! これくらいの試練は軽く飛び越えなければ、竜の加護は舞い降りぬ!」
【ユメ】「もちろんです!」
そして私たちは飛び出した。
アキトの背中に追いつくど同時に……それぞれのするべきことを、叫ぶ!
【ソイ】「よし。では、はじめるぞ。アキト、ユーリ! 余の全力を両翼《りょうよく》から支えよ!」
【アキト】「わかってら!」
【ユーリ】「いつでもどーぞ!」
殿下のシンボルが、一際高く輝いた。
【ソイ】「『深き霧の中より出でよ、ムンム! 目覚め、歌えよ、我が咆哮の指し示す先に! カオス・スピリット! 』」
【アキト】「『勇ましきアレス、ここに戦あり。狂乱と破壊の槍をもて、敵を粉砕せしめよ! ファイア・チャリッオット!』」
【ユーリ】「『美しきワルキューレ、ブリュンヒルデの怒りを買いし愚か者よ! 愛馬グラニの蹄によりて、燃え滅びよ! ノートゥング・デス!』」
続いて、アキトとユーリの呪文も完成する。
三つの光がゴーレムの大群に向かう。
真っ白な波が世界を覆い、激しい怒号が大地を揺らした。
【ゴーレムたち】「ごぐがあああああああああ!」
【ソイ】「ユメ!」
【ユーリ】「今だ! 行って!」
【ユメ】「うん!」
そして私も、唱えていた飛行の呪文を放つ。
宝石と共に。
【ユメ】「『ウィング!』」
足下から冷たい風が吹き、魔方陣が浮き上がる。
私の背中に、白い羽をつける。
飛べる!
【ユメ】「『ゆけ! 弾丸より早く!』」
耳に激痛が走った。
冷たい氷の粒が私の体をメチャクチャに刺していく。
だけど止まらない。
止まらない。
【アキト】「ユメっ……!」
アキトが何かを私に言ってくれた。
だけど言葉はあっという間に雪景色の彼方に消えて、内容なんて解らない。
でも。
(解った気分になっちゃうんだ!)
アキトも私を信じてくれる。
私はきっと、やり遂げられる。
(みんなの力で……先輩を助け出すこと!)
私はその代表なんだ。
冷たい、痛い、辛い、でも我慢する。
目の前に白い固まりが立ちふさがった。
【ユメ】「どっけー!」
手に握りしめた、最後の宝石を使い——私はその胸の中に飛び込む。
貫く。
風景が見える。氷で出来た、大きな壁 ——。
【ユメ】「わぷっ!」
魔法の力が切れて、空中から地面にたたき付けられる。
私は雪の坂をごろごろと転がる。
【ユメ】「痛っ……」
何かにぶつかって、ようやく体は止まった。
だけど目の前が真っ黒で、真っ白で……。
しばらく私は体を丸め、襲い来る寒さと吹雪に耐えた。